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セヴシック

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トロイメライ 2
トロイメライ
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コルダ4後、3年生になってからのお話、夢に翻弄されるニア
函館のイベントはほぼゲーム中と同じです
若干ニアがセンチメンタルかつ女々しいので、苦手な人はお気を付けください。



「二番目の家」


 ニアはその日から、何度かあの夢の続きを見た。小日向とともに函館天音学園の生徒となり、全国学生音楽コンクールの優勝を目指している、ありえない夢だ。そこでニアらはBP、ブラボーポイントという音楽で人を感動させる力を集め、横浜にある洋館、通称「二番目の家」で一緒に暮らし、時には二人で年頃の女子高生らしく買い物やデザート巡りに興じていた。音楽、という共通のものが出来たからか、二人の距離は現実のものより確かで、深いものになっているのではないか、とニアは感じていた。
 小日向の周りにいる男たち、彼らはこの距離で彼女と接しているのかと思うと、彼らへの羨望は以前より増した。だが、この夢の中だけは、ニアが小日向かなでを独占することができる。夢に拠り所を求めるなど、なんて愚かなのだろう。それは、現実の小日向と自分との関係を否定しているようにも思えた。それでも、ニアはその夢の続きを望まずにはいられなかった。
 桜の季節が終わり、通りはすっかりといつも通りの色を取り戻していた。後少しとも知れないこの過ごしやすい気候を味わおうと、人々は散った桜の代わりに着飾っているのかもしれない。ニアの隣を歩く小日向も例外ではなく、休日ということで気合いの入った私服をまとい街に繰り出していた。休日だから、ということを彼女は強調していたが、ニアはそれだけではないことを察していた。
「ニア、これはどうかな?」
 二人はショッピングモールで服を物色していた。青い爽やかなスカートを選び、小日向はニアに意見を求める。
「君には少し丈が長すぎるんじゃないか」
「だよね。この色、すごくいいんだけどなあ」
 彼女はああでもないこうでもないと服を見定めている。こうして見ると、彼女も普通の女子高生なのだ。ステージ上の彼女の姿を知っていると、ニアはどうも小日向を縁遠い人間だと思ってしまうことがあるのだが、今の彼女は紛れもなくただの女子高生で、自分が傍にいても何も不自然ではないということに安心する。
「小日向、こっちはどうだい? 君によく似あうと思うんだが」
「ちょっと大人過ぎない? 私童顔だから」
「そんなことはないよ。ほら」
 しばらくして、戦利品を抱えた小日向とニアは落ち着いた雰囲気の喫茶店で一息ついていた。二人のテーブルには、それぞれ艶のある果物の乗ったタルトと、上品な香りのする紅茶が並んでいた。ここはニアが気に入っている喫茶店で、小日向に限らず、誰かと一緒に来たことは無かった。
「とっても美味しそう」
「ここの苺のタルトがお気に入りでね。他のメニューも頼んでみたかったんだが、どうしても苺のタルトを選んでしまうんだ」
「それで、私と一緒に?」
「そういうことだ。二人なら違うメニューを頼んで両方のタルトを楽しめるだろう」
 君と一緒に過ごしたかったという本音を、ニアは口にしなかった。
「そういえば、ニアとこうして二人でお出かけするの、久しぶりかも」
「週末合奏団の団長様は忙しいみたいだからね」
 事実、小日向はとても忙しかった。主宰する週末合奏団のコンサートの手配や曲の練習はもちろん、オーケストラ部にも所属する彼女は副部長としても少なくはない仕事と責務を背負っている。
「ニアが誘ってくれるなら絶対断ったりしないのに」
 その言葉を疑うわけではないが、ニアはその言葉を正面から受け止められるほど素直にはなれなかった。優しい言葉を聞くと、あの夢を思い出してしまうから。
「君はもう少し言動に気をつけたほうがいい」
「どういう意味?」
「易々と殺し文句を使ってはいけない、という意味だ。今日のデートのお相手が嫉妬してしまうよ」
 小日向は顔を真っ赤にして驚く。
「な、なんで知ってるの?」
「私が気づいていないとでも思っていたのか? 君のその随分力をいれた服装を見れば誰でも勘付くと思うがね」
 彼女はさらに顔を赤くする。
「やっぱりちょっと頑張りすぎかな?」
「男は特別というものに弱いんだ。そういう意味なら大成功だと思うぞ」
「それ、褒めてる?」
 ニアは小日向をからかいながら、小日向は必死にニアに抗議しながら、二人はデザートを平らげた。
「小日向、この後はどうするんだ?」
「んー、待ち合わせまでまだ時間あるし、一旦帰ろうかな」
「デートに備えてお色直し、と言ったところか」
「違うって!」
「では帰ろうか、“二番目の家”へ」
 覚えのない単語を、小日向は聞き逃さなかった。
「二番目の家って?」
「何を言ってる、私たちの」
 家じゃないか、と出そうになった言葉を、ニアは急いで飲み込んだ。
「……寮のことだ。もはや二番目の家のようなものだろう?」
 まあ確かにと頷き、小日向は二番目の家ってかっこいいね、と言って笑った。ニアもまた、少しだけ顔を歪ませて笑顔を作った。

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