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セヴシック

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願わくは
コルダ4 ジルベスターコンサートの夜。
冥加→かなで→天宮

天宮想い告白、冥加慰め告白のネタバレを若干含みます。
小説というよりはポエムに近い。
少しゲームに近すぎると思ったんですが、せっかくなので上げてみました

話があると言われた時から、薄々予感はしていた。彼女の手が、声が少し震えていたのも気づいていた。
彼女の頬に、少し赤みが差していることにも。

「今日のコンサート、とても良かったね」

普段なら心地よい沈黙も、今日はなんだかいたたまれなくて僕は月並みな話題を口にした。ありがとう、と彼女は笑う。朱が差した彼女の笑顔は、とてもきれいだ。
そして、彼女は意を決したように真っ直ぐに僕を見つめた。

彼女は僕にとって特別だった。それは、今も変わらない。彼女が好きだったという想いも、嘘ではない。
けれど。
僕は彼女を幸せにできるだろうか。

僕は、年明けから海外へ行く。おそらくは、しばらくは日本に戻ってはこられないだろう。自分は、彼女は、その距離に耐えられるだろうか。
彼女を寂しがらせはしないか。
そして――
冥加は、どう思うんだろうか。

冥加は、自分以上に音楽にとり憑かれていた。音楽を愛しながら、憎んでいた。
彼がとり憑かれていたのはただの音楽ではなく、彼女だと知ったのはあの夏が終わってからだった。
あの夏のコンクールが終わってからの冥加は、どことなく柔らかくなった。彼の音色も、愛憎入り乱れた狂おしいものから、少しだけ純粋な愛しさを感じられるようになった。
冥加を変えた彼女に、興味を持った。以前から関わりはあったが、あれは単なる実験に過ぎなかった。
彼女がどう思っていたのかは知らない。
でも、彼女がまた僕の前に現れたから、「片思い」をしようと思った。

最初は、以前やっていたことの延長だと思っていた。彼女もそれを望んでいたようだったから、僕は気兼ねなくそれを続けた。
だが、いつからかそれは実験ではなくなっていた。実験とそうではないことの境界もわからず、僕は彼女に惹かれていった。
だからこそ、冥加の気持ちにも僕は気づいていた。
冥加は彼女を愛している。
それが鬱陶しく、はっきりとあきらめたほうがいいと口にしたこともあった。彼女の口から冥加の話題が出ることにいら立ちを感じた。
冥加と彼女がいる所を、冥加の優しい視線を見るたびに、彼女の隣にいるべきなのは自分ではなく、冥加なのではないかと不安になった。
恋の真似事から始まった僕と、七年も前から彼女だけを見ていた冥加。こんなもの、比べるまでもないじゃないか。
彼女と共にいるべきなのは、僕じゃない。


彼女の告白からどれだけの時間が経っただろう。彼女は目を逸らすことなく、僕を見つめ続けている。
たまらず、僕は彼女から視線を外した。

君の寮に泊まりに行った時。
空港に君が迎えに来た時。
君と僕の誕生日を一緒に祝った時。

彼女との思い出があふれてくる。それでも、伝えなければならない。

「君の手を、取ることが出来ない」

彼女は今、どんな顔をしているだろう。
「好きになってくれて、ありがとう」
僕は最後まで、彼女の顔を見ることが出来なかった。


彼女が去った後、脱力感に襲われ思わず椅子に座り込んだ。教会のステンドグラスは気持ちとは裏腹に、月明かりに照らされて輝いている。
彼女と再会したのも、教会だった。
毎週のように彼女は教会に足を運び、いつも僕の演奏を聴いていた。そして演奏が終わると拍手をして、素敵でしたと言って笑う。神様もきっと喜んでますよ、と。

神様が、もしいるのならば。
思い立って、天宮はピアノへと重い足を引きずる。

神様、もしいるのなら。
この演奏と引き換えに、願わくは――

「彼女が、幸せになれますように」 



小日向かなで。
奴が自分のことをどうとも思っていないことなど、七年前からとうに知っていた。
合奏団にと声をかけてきたのも、俺に利用価値があっただけのことなのだ。それなのに、奴は忠告も聞かず、土足で俺の心を踏み荒らしていった。
わかっていてそれを止められぬ自分は、文字通り彼女に支配されきっている。

彼女を愛している。
それゆえ、彼女の想い人が自分ではなく天宮だということも察していた。
それでも、あの温室に咲く薔薇のような、色とりどりの表情を見ているだけで幸福だった。

だが、いつしか欲は蛇毒のようにこの体を蝕んでいった。
おまえの視線が、音色が、心が欲しい。
天宮に向けるその愛情の一欠片でも、俺のために見せてくれたなら。
そんな期待を粉々に打ち砕くように、小日向は天宮の下へと向かい親しげに笑う。
そして、二人は連れ立って会場から姿を消した。彼女の顔はいくらかいつもより赤らんでいた。天宮の表情は、見えなかった。

もうここに用は無い。
一通りの社交辞令を済ませ、俺は打ち上げ会場であるホールを後にした。


ジルベスターコンサートの熱気にあてられたのか、外に出ると冬の冷気が体を刺した。吐く息も白い。
少し長居しすぎたと自嘲する。望みなどないとわかっていたはずなのに、期待してしまった自分がたまらなく滑稽に思えた。
コツコツと、誰かが走る音がする。不審に思い目を向けると、白いドレス姿の人影がどこかへと走っていく。
見間違えるはずもない。あれは小日向だ。
引き寄せられるように、俺は小日向の後を追った。


彼女は泣いていた。その小さな肩を震わせ、こんな寒い中、一人で。
天宮は彼女の気持ちを受け入れなかった、ということだろう。
俺が彼女に愛されていたのなら、今すぐにでも彼女に駆け寄り、その細く小さな凍えた体を抱きしめただろう。

だが、俺にその資格はない。彼女の心に俺はいない。抱きしめるでなく、コートを貸してやることもできただろうに、俺はその場から動くことができなかった。
彼女に拒絶され、自分ではない誰かのためにこんなにも打ちひしがれる彼女を見ることが、恐ろしかったのかもしれない。

小日向はしばらくの間泣いていた。嗚咽を噛み殺しながら、静かに涙をこぼし続けた。
さすがに体が冷えたのか、彼女は出口へと思い足を引き摺る。うつむいていたせいで気づかなかったのか、小日向は俺のすぐ近くで立ち止まった。

「気は済んだか?」

俺の顔を見上げた彼女の目から、再度涙が溢れ出す。その涙は、誰のための涙なのだろう。

「天宮を本気で愛したお前の負けだ。……あいつは、おまえのものにはならないさ」

天宮の真意はわからない。
小日向が今、何をどう思っているのかもわからない。それでも、願いを口にせずにはいられなかった。

「俺で妥協したらどうだ?」

恋に破れたお前を絆そうとする俺を許してほしい。
その涙でぐしゃぐしゃになった顔でさえ、愛しく思ってしまうのを許してほしい。
過ぎたこととわかっていても、願わくは――

「ただお前を愛することを、お前の心がいつか動けばと祈ることだけ、許してくれ」



これ書いたの結構昔なんですが、今読み返すと恥ずかしすぎてきついです(笑)
天宮に振られてからの冥加慰め告白のインパクトが強すぎて一気に書いた記憶。

振られた理由を色々考えて、好きというよりも将来への不安が勝ってしまったのかなとか妄想しました。

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