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セヴシック

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この想いが情なのか
AS天音軸 冥かな 記憶が戻った後~
と言う感じのごく短いSS、というかポエムですかねこれは

相変わらず糖度はなし、シリアスともちょっと違うような、けれど重め…




「この想いが情なのか」



ある日届けられた天音学園の入学案内。それが、すべての始まりだった。
私はヴァイオリンが好きだった。
昔と比べその演奏が響かなくなっていたことも知っていた。
だから、一歩を踏み出した。
あの金色の弦も背中を押してくれているようだったから。



単に、興味本位で写真を見ただけだった。
ある写真に、私は釘付けになる。その写真には、金色の弦をくれたあの少年が写っていた。
どうして今まで思い出せなかったのだろう。
7年も前とはいえ、面影が完全にないわけではない。彼は――
「小日向か」
声の主の顔に、視線が外せなくなる。
金色の弦をくれたあの人。
私を呪ったあの人。
私が傷つけてしまった、あの人。
「この写真は……」
冥加は何故か、口の端を持ち上げて笑う。
「ようやく思い出したか? 奴の道楽もこんなところで役に立つとはな」
私は何も言えなかった。何を口にすれば良いのかわからなかった。
感謝も、怒りも、謝罪すらも、私にとって許されるものではないと感じた。
「おまえを逃がしはしない。……おまえを叩き潰すまで」
憎悪からくる言葉が、逆に私を安心させた。
「冥加? ここにいたのか。そろそろ演奏会が始まるよ。……小日向さん?」
天宮の声がしたが、私は依然として彼から目を離せなかった。
「何、楽しい昔話をしていただけだ。……行くぞ」
二人が出て行った後も、私はなかなかその場から動くことができなかった。
7年前の出来事が、今まで忘れ去っていたことが嘘のように、繰り返し頭の中で再生される。
「喜んでほしかったから」
私は、呪いの言葉を呟いた。


翌朝、私はなかなか寝付けず一番遅れての登場となってしまった。整理はつかなかった。だから、今までと変わらない風に装う。だから、冥加にも明るく挨拶をする。
彼は無神経な女と眉をひそめた。
そうだ、それでいい。私は優しくされていいはずがない。

これまで冥加への好意を隠さなかったのは、罪の意識からだった。
彼が好まない行動を故意にとり、彼に憎まれることが、私にとっての救いだった。
彼へわざと好意を向け、彼から拒絶される。それが私自身への許しだった。


でも、いつからだったろう?
冥加の行動は、私を混乱させた。
時に見せる優しさが、私には逆に苦しい。

私に優しくしないでください。
その優しさを受け入れる覚悟が、私にはまだないから。
この想いが情なのか、私にはまだわからないから。

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