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トロイメライ
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コルダ4後、3年生になってからのお話、夢に翻弄されるニア
函館のイベントはほぼゲーム中と同じです
若干ニアがセンチメンタルかつ女々しいので、苦手な人はお気を付けください。
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コルダ4後、3年生になってからのお話、夢に翻弄されるニア
函館のイベントはほぼゲーム中と同じです
若干ニアがセンチメンタルかつ女々しいので、苦手な人はお気を付けください。
「トロイメライ」
星奏学院の講堂のやや前方の通路側の席で、支倉仁亜はステージの上で圧倒的な輝きを放つ少女を見つめていた。小日向かなで、ニアの親友である。彼女が主催するコンサートに、ニアは招かれたのだ。
去年の夏に彗星のごとく現れた転校生、小日向かなでは星奏学院の全国学生音楽コンクールの代表に選ばれ、数々の列強を下し見事コンクール優勝の証である銀のトロフィーを勝ち取った。そして、まるで女神のように美しい音色を響かせた彼女は、多くの人間を魅了した。ニア自身も、彼女に魅せられた一人だ。
夏が終わると、小日向は伝説のジルベスターコンサートを再現するという新しい目標の下、週末合奏団という主催の合奏団を立ち上げた。彼女の下にはかつてコンクールで出会った一癖も二癖もある曲者たちが集まり、個性的な彼らをまとめあげ、週末合奏団は瞬く間にその名を轟かせていった。そして去年の大晦日、ジルベスターコンサートは伝説と同じように大成功を収めた。
そのコンサートの打ち上げの中、数多くの人々に囲まれる彼女を見ていたニアは、まるで絶対的な引力で惑星を引き付ける太陽のようだと感じた。小日向のすぐ近くで、彼女と音を重ねることができたら、彼女を支えることができたなら、どんなに良かっただろうと思う。しかし、彼女のすぐ近くにいるための音楽をすでにニアは手放していて、また近くでその輝きを直視できるほどニアの目は光に慣れていなかった。
ブラボー!という歓声でニアは我に返った。どうやらぼんやりしていて、曲の半分ほどを聞き流してしまっていたらしい。これでは小日向に怒られてしまう、とニアは苦笑し、居住まいを正した。ステージの上の彼女を再度見つめる。
曲が始まり、彼女の美しいヴァイオリンの音がホールを包み、穏やかで、もろく、儚いメロディが紡がれていく。このメロディをニアは知っていた。トロイメライだ。
「トロイメライ」はニアの好きな曲であった。自分も夢をみるのなら、こんな優しい、美しい夢を見たいと幼いころ弾いていた曲。昔を思い出したからなのか、ニアは小日向と共にトロイメライを奏でているような錯覚を起こした。ニアがピアノを奏で、そのすぐ隣で小日向がヴァイオリンを弾いている。それはまさに、夢心地が見せた幻だった。
揺れるバスの中、支倉仁亜は薄目を開けた。バスのアナウンスが停留所の名前を繰り返す。目的地は程遠い。車中には自分と、もう一人少女がすぐ向かいの席に座っていた。見覚えのある制服を身にまとった彼女は、気持ちよさそうに眠っている。おそらく、目的地は同じだろう。
しばらくして、少女は目を覚ましあたりを見回した。どこかぼんやりとした少女の顔は、まるで―――
そこはバスの中などではなく、いつもの少し老朽化した天井が目に映った。
「夢、か」
妙に現実味を帯びた夢だった。揺れるバスの心地よい振動、バスの車掌のやる気の無いアナウンス、そして、あのバスにいた少女、小日向かなで。
今こうしていることが夢で、あちらが現実だと思えてしまうほどの感覚にニアは少しだけ恐ろしくなった。しかし、彼女があの制服を着ていたということが、夢であるということを裏付けるものだろう。それに、とさらなる思考はけたたましい目覚まし時計にかき消された。起き抜けの頭にその音は容赦なく響き、夢の内容は霧散していく。
「まったく、君はまた…」
鳴りやまない音にため息をつきながら、私は隣人の部屋をノックし、扉を開ける。そこでは、気持ちよさそうに眠る隣人、小日向がすやすやと寝息を立てていた。
「小日向、ほら起きろ」
気持ちよさそうに眠る彼女を揺するも、なかなか目を覚まさない。あどけない表情で眠る小日向の顔は、あのバスの中で眠っていた時のものと同じで、ニアはそれに見入ってしまう。胡蝶の夢、という話がある。蝶になる夢を見て、実は自分は蝶で、人間として生きている夢を見ているだけなのではないかと疑念に思う話だ。この話になぞらえるならば、私はまだ函館にいて、自分が望んだ、こうであってほしいと願った夢を見ているだけということになる。
「…ニア?」
ようやく目を覚ましたのか、小日向は寝ぼけ眼でニアを見上げた。
「小日向」
これは、夢なのか? そう聞きかけて口を噤む。あれだけの夢に乱されるなど、どうかしている。
「やっと起きたか。定期的に君の目覚めに付き合わされるこっちの身にもなってくれ」
鳴り続けていた目覚まし時計の音に気付いたのか、彼女はごめんと言って慌ててそれを止めた。昨日夜更かししたからかなあと呟き、彼女は呑気にあくびをした。小日向がまるでいつもと変わらないことにニアは安堵し、ここが確かに現実なのだと実感する。
「ぼんやりしているなら、今日の朝食のおかずは私が頂こう」
「え、ダメだよ!ちょっと待って!」
彼女が慌てる様子がおかしくて、ニアはしばらくその様子を眺めていた。
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