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セヴシック

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メリークリスマス
クリスマスなので。
4軸でニアと小日向のクリスマスのお話。短いです。


「メリークリスマス」



 今日はクリスマスイヴ、そこかしこにイルミネーションが輝き、店内にはクリスマスソングが響いている。そんな浮かれた様子の街を抜け、ニアは菩提樹寮へと帰宅した。寮には人気が無く、ニア以外は誰もいないようだ。
 それもそのはず、寮の住人である小日向と如月兄弟は週末合奏団のコンサートで今は不在なのだ。ニアもそのコンサートを聞いてきたのだが、主催者は後片付けやら打ち上げやら色々とあるのだろう。
 それに、小日向にはこちらからクリスマスコンサートを開けと勧めたのだ。コンサートを開いた後に、目当ての男をデートに誘う。この上ないチャンスだ。これを利用しない手はないとニアからけしかけたのだった。
 ニアは自室へと荷物を置き、買ってきたケーキを冷蔵庫へと入れた。一人とはいえ、少しでもその気分を味わおうと有名店のケーキを買ってきたのだ。そのせいで、夕食はあまり良いものは買えなかったが。
 カップ麺を食べようとやかんに水を入れ、それを火にかける。火は音も無くやかんを熱し、寮の中は外とは違いとても静かだ。
 寂しさというものに鈍感な方だとニアは思う。それでも、この静寂はいつもと違い、ニアを哀れんでいるように思えた。それは、今日がクリスマスという特別な日だからだろうか。やかんから水が噴き出し、ようやく音が生まれた。それが嬉しかったわけでもないが、しばらくの間、ニアはそれをぼんやりと見ていた。
 火を止めた後も、何故かカップ麺を食べる気になれずニアはやかんをそのままにしてラウンジの椅子に腰かけた。
 今頃、小日向はうまくやっているだろうか。
 ニアは今日のステージの親友の姿を思い浮かべた。意中の相手と並ぶ彼女は、とても綺麗だった。もちろん、その音も。
「……らしくないな。私が、寂しいと思うなんて」
 その呟きも、静寂の中に吸い込まれていく。
 ニアは立ち上がり、自然とピアノの前に足を運んでいた。ピアノはやめたのだ。おそらく、これから弾くこともないだろう。だが、無性に弾きたくなることがあるのだ。ピアノを続けていれば小日向ともっと仲良くなることができたのかもしれないという、いつか見た夢をおぼろげに思い出しながら。
 その時、ドアが開く音がした。
「ただいま!」
 声の主を見てニアは驚いた。
「……小日向? どうして」
「えへへ。ちょっと遅くなっちゃった」
 走ってでも来たのか、少し息を切らしながら小日向は笑った。
「クリスマスデートをするんじゃなかったのか」
「そのつもりではあったんだけど、今日は、ニアと過ごしたくて。最近週末合奏団とかで忙しくて、なかなかおしゃべりできてなかったから」
 どうしてこうも、この親友は欲しい言葉をくれるのだろうか。
「……そうか」
 そしてどうして、自分は素直になれないのだろうか。ありがとうと、そう言えないのだろうか。
「そうだな。今日ぐらいは君の時間を独占させてもらおうじゃないか」
 それでも、この特別な日にニアと過ごしたいと言ってくれるから。そんな彼女に甘えてしまう。
「そうだ、何か作ってくれないか。お腹がすいて死にそうなんだ」
「そう言うと思って、食材買ってきたんだ」
 先ほどは気づかなかったが、小日向は重そうなビニール袋を左手に下げている。それを見て、ニアは自分が買ってきたケーキを思い出す。ケーキは一つしかない。
「だから、ちょっと時間かかるけど待っててくれる?」
「もちろんだ。私も、ちょっと用を思い出した。すぐ戻るから、料理を作っていてくれないか」
「うん、わかった」
 今日はクリスマスだ。二人で一つのケーキでは、少し味気ない。今日ぐらい浮かれてもいいだろうと、ニアは思う。入れ違いになるようにして、ニアは靴を履いて寮を出ようとした。そして、そこで思いとどまる。
「……小日向」
「どうかした?」
「メリークリスマス」
 今日は特別な日、だから、辛気臭いのはやめておこう。ニアはありがとうを飲み込んで、その言葉を口にした。

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