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コルダ3 サバイヴイベント シリアス
かなでが暗いです。
「罰」
枝織と話していて、知らない男に立ち塞がられた。これはまずい、と枝織の手を引いて逃げようとした。そこからの意識がかなでにはなかった。
周りを見回してみると、薄暗い部屋に割れたガラス窓。どうやら廃墟らしき場所に拉致されたらしいと気づくには時間はかからなかった。
誰かの声がして目をやると、黒い帽子を被った男が何やら話している。そういえば、と自分も携帯電話を探したが、ポケットには何も入っていなかった。電話を終えた男がこちらに気づき近づいてくるのを見て、ようやくかなでは恐怖した。自分は拉致されたのだ。何をされてもおかしくない。
血色の悪い顔に鈍く光るアクセサリーがかなでの目を引いた。それよりもかなでを釘付けにしたのは、彼が来ている制服だった。紫が入った白色の、紛れもなく横浜天音学園のものだった。
「天音が大会を辞退すれば帰してやる」
そう言って男はパンを投げてよこした。意外な気遣いに少しあっけにとられてから、男の言った意味を反芻する。大会を辞退させたいということだろうか。同じ、横浜天音学園の生徒だと言うのに?
同時にかなではきっとこの人の願いはかなわないだろうと悟ってしまう。だって、冥加はそんなことに屈する人ではないし、おそらく自分の存在など意に介さない。それどころか、いい気味だと笑ってさえいるかもしれない。それが少し、痛いようで心地よかった。
同情の目に気づいたのか、男は声を荒げた。
「そんな目で俺を見るな!」
かなでは体を震わせたが、男は何をするでもなくぶつぶつと呟き始めた。
「初めてだったんだ。ステージで、あんな喝采をうけたのは」
冥加とのアンサンブルでの思い出を男は語った。この方法は間違っているとはいえ、彼も音楽をこよなく愛している。どうしようもなく。それが絶たれてしまって、でも失いたくなくて、それならば壊してしまえと行動を起こした。突拍子が無さすぎる気もするが、自分の願いを行動に移せるだけ羨ましいとかなでは思う。
物音がして、男とかなではハッとしてその方を見た。誰かが助けに来てくれた?
「誰だ!」
動じることなく入ってきたのは、冥加だった。男が息を呑んだ。かなでも少なからず動揺した。彼は自分を助けに来たのだろうか?それとも、馬鹿だとあざ笑いに?その目は男を見ていて感情を読み取れない。
「こんなところを根城にしていたとはな」
その声は威厳に満ちていて、男が気圧されるのがわかった。男は冥加に脅しらしい言葉をかけるも、微塵も揺れる様子はない。そればかりか、冥加の方が男を圧倒している。
ヒートアップする口論にかなではたまらず声をあげた。この男もわからないのだ、アンサンブルに出たいという思いを、どう昇華すればいいのか。それは、自分の抱える願いとよく似ていると思った。彼にあびせられる冥加の言葉が、何故か自分の胸を抉るようでかなでは耐えられなかった。
うるさいと男が肩を震わせ、傍にあったパイプ椅子を手に取った。
振り上げられたパイプ椅子を、かなではただ見つめていた。これは罰だと思った。7年前にしでかした罪への。
だが、期待していた衝撃はやってくることは無く、痛みの代わりに温もりに包まれた。かなでは冥加に庇われ、その腕の中にいた。混乱の中、かなではぼんやりと冥加の声を聞いていた。
自分の名前が出てきた気がしたが、こんがらがった頭はそれが何を意味するのかまでは理解できなかった。
寮の前まで送られ、かなでは車を降りた。車中、二人は終始無言だった。
「後は帰れるだろう」
そう言われて、かなでははいと言葉を返す。その声は微かに震えていた。
車に戻ろうと踵を返した冥加のその腕に血が滲んでいた。いてもたっても居られなくなり、かなでは手を伸ばした。
「その腕…!手当、を」
腕に触れると冥加はびくりと身じろぎした。触れるな、と冥加は腕を引く。
「貴様には、触れられたくない」
拒絶され、かなでは大人しく手を戻す。そうやって、自分はまたこの人に償う機会を失った。
ドアが閉まり、エンジンの音と共に冥加の乗った車が遠ざかっていく。
また彼を傷つけた。あの時、パイプ椅子を故意に避けなかった。
傷が欲しかったのは、私だったのに。
7年前のことを思い出してから、ずっと考えていたことだった。あの時の言葉はもう無かったことにすることはできない。7年間、忘れていたのなら尚更。だから、償いたかった。だが、償いの類を彼はすべて跳ねのけた。望むものはかなでを地の底へ追い落とすこと、冥加はそう断言した。
しかし、かなではそれだけは譲ることができない。勝者というのは、戦ってきたすべての敗者の想いを背負っている。7年前にはわからなかったことに、かなではようやく気付いたのだ。ステージで勝ちを譲るなんてことをしたら、それこそあの時の二の舞になる。
だからこそ、罰を願わずにはいられない。償うことはできないから、それと同じだけの罰を。
そうか、と一人かなでは納得した。贖うことのできない罪を背負い続けること、これこそが罰なのだ。
冥加の乗った車が視界から消えるまで、かなではずっとそれを見つめていた。
車のテールランプの赤が、いつまでも目の奥に焼き付いて離れなかった。
冥加とかなでの愛憎入り混じった感じを書きたかったんですが力不足でした
冥加→かなでが愛とか憎悪とか支配されたいなら
かなで→冥加は反発とか負けん気とか罪悪感とか幼いころの思い出
が好意の中に色々混ざってるといいな、という妄想。
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