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セヴシック

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茨の森 22
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函館天音軸 冥加×かなで
函館軸ですがゲーム本編に全然沿ってません(コンクール云々は一緒)
ファンタジー色強め、登場人物のキャラクターがおかしいかもしれません
オリジナルの捏造設定のようなものも多々でてくるのでご注意を。




「宣誓」


 静かな場所で一人練習したいとき、かなでは練習室ではなく聖堂に足を運ぶようになった。まるでホールのような音響が弾いていて気持ちが良いのと、また冥加が演奏しているのを見ることができるのではないかという期待があったのだ。
 だがその願いむなしく、演奏どころか聖堂で彼に会うことすらなかった。冥加がヴァイオリンを弾くのを見たのは、コンクールが最後だ。
 あの音色を聞いて、涙が流れた。心を奮い立たせることができた。同時に、その音を苦しいと思った。
その苦しさが何なのか知りたい。かなではもう一度、あの音色を聞きたかった。
 聖堂で冥加の演奏を聞いたとき涙が流れたのは、単なる感動だけではなかった。記憶の奥底に眠る面影を無意識に恐怖していた。辛い記憶を呼び起こす糸口を掴むのを、意識せずに拒否したのだ。
 だが、音に潜む音楽に真正面から向きあう真摯さ、覚悟のようなものが、あの時自分には無かったものが心を打ったのも確かだった。
 記憶を取り戻した今、もう一度彼のヴァイオリンを聞くことで、自分の中にある決意を確かなものにしたかった。本当は、願いはそれだけではないことにかなでは気づいていた。それがどういうものなのか、はっきりさせたい気もするし、そのままぼかしておきたいとも思う。
 いずれにせよコンクールが終われば横浜を去り、冥加の演奏を聞く機会は遠いものになってしまう。
 聖堂の扉の前で深呼吸し、かなでは慎重に扉を開けた。なるべく音を立てぬように、もし彼がいるのならその演奏の邪魔をしてしまわぬように。
 扉が微かに開きヴァイオリンの音が漏れ出してきて、思わず息を飲んだ。
 彼だ。
 低く唸るような、どこか冷たい風を思わせる音色。それなのに、熱く心を突き動かす音。
 人一人が通れるだけ扉を開け、かなでは聖堂に足を踏み入れた。部屋の奥で冥加がヴァイオリンを弾いているのが見える。だんだんと弓の動きやヴァイオリンの音色、冥加の表情が鮮明になり、かなでは無意識に息を殺しながら彼に近づいていた。冥加はかなでに気付いているのかいないのか、曲の終わりまで演奏を止めなかった。
 ヴァイオリンは構えられていた肩口から離れ、それを支えていた顔がこちらを向いた。弾いていた時と変わらない、厳しさが滲む表情だ。はっとして、かなでは拍手をした。
「何か用が?」
「冥加さんの音が聞きたかったんです」
「……」
 冥加の顔色は動かない。
 本当ならどうして苦しいのか、私にできることはないかと、はっきり聞いてしまいたかった。
「あ、その……コンクールが終わったら冥加さんの演奏も聞けなくなっちゃうんだなって」
「……そうか」
 彼はそれだけ言って、また口を噤んだ。かなではいつもより多く目を瞬かせた。皮肉や冷たい言葉の一つ二つでも言われるのではないかと身構えていたのだ。
 次に何を喋ればいいかわからず、だた冥加を見つめるほかなかった。冥加もかなでを見ていたが、少ししてヴァイオリンを片付け始める。
「み、冥加さんって忙しいんですか?」
「どういう意味だ」
 手を止めないまま冥加は不機嫌そうな声で言った。
「暇だったらでいいんで、ファイナル聞きに来てください。……やっぱり、絶対聞きに来てください」
 彼の抱える苦しさをすべて知ることはできないけれど、それが自分によるものなのであれば……あの7年前のことが関係しているのなら、演奏で返すしかない。そして今度こそ、冥加とも、音楽ともまっすぐ立ち向かいたい。
「聞いてほしいんです。私の演奏も」
 ヴァイオリンをケースに入れ終えた冥加がかなでを一瞥し、聖堂から出るのか扉へと向かった。静かな聖堂に足音と低い声が響く。
「俺を失望させるな。俺が貴様を屈するその時まで」
「私はもう負けません。……冥加さんにも」
 その言葉に反応したのか、冥加は一度足を止めて、そして再び歩き出した。冥加が聖堂から出ていくのを見守った後、かなでも聖堂を後にした。

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