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セヴシック

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茨の森 6
7話←  茨の森6話  →5話  →→→1話 
函館天音軸 冥加×かなで
函館軸ですがゲーム本編に全然沿ってません(コンクール云々は一緒)
ファンタジー色強め、登場人物のキャラクターがおかしいかもしれません
オリジナルの捏造設定のようなものも多々でてくるのでご注意を。


「依然として」



「ステージの上だと少し印象変わるんだね、彼女」
 小日向の演奏は確かに美しい音色だった。マエストロフィールドこそ見えはしないが、以前冥加が見に行った腑抜けた演奏よりも格段に良くなっていた。だが。
「奴の実力はこんなものではない」
 7年前のあのコンクールを、冥加は今も忘れることができない。あんな小柄な少女から生み出されているとは思えないほどの“愛のあいさつ”に、冥加だけでなくあの場にいた全員が息を呑んだ。一点の曇りなく音楽を愛している、まさに女神が奏でる音楽のようだった。しかし小日向はその純粋さ故か、冥加に慈悲をかけようとした。幼い彼女はその自覚も無かったのだろうが、それは深く冥加を傷つけた。自分の演奏は競うだけの価値もないと彼女に突き付けられ、両親の死からなんとか保たれていた自尊心が音を立てて崩れた。
 結局冥加はコンクールで優勝し、そのおかげでアレクセイの援助を受けることができた。路頭に迷うこともなく、妹の枝織にも貧しい思いをさせずに済んだ。それでも、砕かれた魂は再生することなく粉々になったままあの日に囚われている。
 いよいよ、本日最後の演奏となる天音学園の二曲目の順が回ってきた。舞台に向かい、冥加は真っ直ぐと観客席を見据える。小日向は、欠片もあのコンクールを覚えていないというのか。あの日に縛られているのは自分だけなのか。そして、先日見せたあの涙は何だったのか。答えは出ない。
それならば、せめてこの音だけは彼女に響かせてみせると、冥加はその弓を動かした。
 午後の部が終わり、セミファイナルへの出場校が発表される。天音学園とアナウンスが流れるが、横浜と函館両校のメンバーは喜ぶことも無く御影が憎まれ口を叩いていた。函館天音の連中はコンクールの結果というよりも、集まったブラボーポイントを見てはしゃいでいるようだった。小日向は笑顔を浮かべながらも、どこか遠い目をしていた。
 記憶を失くしていながらも何ら変わっていない本質を見て冥加は苛立った。この女は未だコンクールというものがわかっていない。その甘さがさらに相手を苦しめるということをまだ理解しきれていないのだ。
「御影、俺は仕事で天音に戻る。後は解散なり好きにしろ」
 これ以上ここに居ると、苦い思い出がさらに濃くなる気がして、冥加はそう言い残して会場を後にした。その背中に視線が注がれていることを、冥加は知らない。




戦ってる相手に哀れまれるのきついですよね。
昔部活やってたんでそこらへんは共感してました

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