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セヴシック

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茨の森 11
12話←  茨の森11話  →10話  →→→1話
函館天音軸 冥加×かなで
函館軸ですがゲーム本編に全然沿ってません(コンクール云々は一緒)
ファンタジー色強め、登場人物のキャラクターがおかしいかもしれません
オリジナルの捏造設定のようなものも多々でてくるのでご注意を。

「焦り」


 冥加に弁当を渡したその日の夜、かなで宛にラベンダーの花束が届けられた。ニアが君はよく練習しているからファンがついたのだなと感心していた。かなでも自分の演奏が誰かに響いたのだと思い嬉しかった。
 花束を受け取り、部屋に飾ろうと装飾を外そうとしたところ、花束にはメッセージカードが添えられていた。かなでは軽い気持ちでそのカードを見て、危うく花束を落としそうになる。貴様にものを恵まれるいわれはないという言葉と、几帳面な文字で差出人の名前がカードには書かれていた。
 何かの間違いかとカードを穴が開くほど見つめたがどこにも不備はなく、カードの表には自分の宛名もしっかりあった。そこでようやく、かなではこれが冥加から贈られたものであることを認めた。
あの弁当はハンカチのお礼であって、恵みなどではないのにとかなでは複雑な心境だった。それでも嫌と言うわけではなく、かなではメッセージカードの文字をなぞり、それを大事に机にしまった。花束もできるだけ傷つけないようベッドの脇に飾った。
はっきりと拒絶された時にはさすがに心が痛んだが、強引にお弁当を渡し、それでもこうして返礼の品を送ってくれるということは、自分に対する感情のどこかに憎しみ以外のものがあると期待していいのだろうか。冥加はあの弁当を食べてくれたのか、口には合ったのだろうか。布団にもぐったかなでの頭に次々に懸念が浮かぶ。今度はとも考えたが、また気を遣わせてはいけないとかなでは自分を戒めた。多分、何かを贈りたいというのは自己満足に過ぎない。冥加に認められたい、気にかけて欲しい、そして彼に何かしてしまったのであれば少しでも罪滅ぼしがしたいと、ハンカチのお礼という建前をつけたのだ。
 謝るよりも、自分が何をしたのかを知ることの方が先決だというのに。そう思うかなでの思考は、ラベンダーの香りに誘われ深い眠りに落ちて行った。


 翌朝、早起きに失敗したかなでがいつもより遅くリビングに向かうと、ニアとトーノ、そして御影がいた。ソラが起こされ、御影はコンクールの話を始めた。
次のブラボーポイントの目標が告げられ、二人は顔をしかめた。前の目標の2倍近くはある。
「それで、次からは二曲ともあなたたちに演奏してもらうわ。その方がブラボーポイントも稼ぎやすいでしょうから」
 三人は特に反応しなかったが、かなでは少し残念に思った。横浜天音のアンサンブルを、冥加のヴァイオリンをまだ聞いていたかった。
 アンサンブルの選曲を任され、かなではニアを相談役に選び、たまにはお弁当ではなく外でランチでもしようとみなとみらいに繰り出していた。外食をしようと言うのは寝坊をしてお弁当を作ることが出来なかった言い訳なのだが、ニアは笑って承諾してくれた。
 夏休みの観光地だけあって、みなとみらいには多くの人が行き交っていた。山下公園にはよく通っていたが、みなとみらいまで足をのばすことはあまりなく、かなでは様々に変わる街並みを感心しながら眺め歩いた。機会があればみなとみらいで演奏するのもいいかもしれないと思ったところで、かなでは普段耳にしないような黄色い声を聞きあたりを見まわした。
 声が聞こえた方に人だかりができている。それも、そのほとんどが若い女の人ばかり。かなでと同じぐらいの女子高生も多い。
「あれ何だろう。大道芸でもやってるのかな?」
「それにしてはやけに取り巻きがうるさい気もするがね。私たちも行ってみようか」
 輪の中心にいたのはエレキヴァイオリンを持った高校生の二人組だった。その後ろにはキーボード担当らしき人物が控えている。
 派手な髪色をした一人が観客に向かって甘い言葉をかけると、ワッとその場が沸く。髪の長いもう一人もそれに続き、うっとりとした雰囲気が広がった。
「あれは神南の連中じゃないか。次のセミファイナルの相手だ」
 ニアの一言でかなではさらに目を丸くした。
「え、この人たちが?」
「ライブ等で活躍しているとは聞いていたが、これほどとはな」
 ニアによると、屋内野外問わず彼らはライブと称した演奏会を行っており、その活躍はメディアにも取り上げられているらしい。
「それじゃあ行くぜ? 聞き逃すなよ」
 その言葉でざわめきは一瞬にして静かになり、エレキヴァイオリンのはっきりとした音色があたりを包んだ。
 すさまじい表現に圧倒され、かなではただ目を見開くことしかできなかった。その表現もさることながら、技術もなかなかのものだ。金髪をした男子生徒の鮮やかな音色が目立っているが、髪の長いもう一人の丁寧な旋律も美しい。
 そのまま呆然としているうちにライブは終わり、あたりは黄色い歓声に包まれた。だがその歓声がかき消されるほどに、さっきの演奏が頭の中で鳴り響いて止まなかった。
「小日向?」
 目の前でニアに手を振られ、かなではようやくその音から逃れることができた。
「あ、ごめん。ぼーっとしちゃって」
「君も彼女らのように心を奪われたか?」
「違う、よ……」
 否定の言葉を口にはしたが、彼らの演奏により何かが奪われたのは確かだった。
 自分は知らず知らずのうちに慢心していたのかもしれない。自分のヴァイオリンに絶対的自信があったわけではないが、この四人ならばと。一つ駒を進めたことに安心していた。
 コンクールはこれからまだまだ続いていく。競争が激しくなるのはさらにこの先だということを、頭で理解してはいたのかもしれないが実感はできていなかったのだ。
 地方大会の決勝の相手は金管楽器で、自分の演奏と簡単に比べられるものではなかった。だが、今の二人はヴァイオリンで、嫌でもその実力差は浮き彫りになる。彼らの後に、自分は堂々と演奏できるだろうか。
 怖さと、恐れと、焦りが巡った。そして最後に行きついたのは、負けたくないという思いだった。負けは記憶から遠ざかることを意味し、また函館天音からの退学に繋がるかもしれない。何より、あの人を失望させてしまう。
 ここで負けるわけにはいかない。かなでは彼らに勝たなければいけないのだ。




小日向さんには悪いですが、お弁当イベントはこれで見納めになります
コルダ4でもお弁当断られますが、理由も何も言わずばっさりなところが冥加さんらしいですよね

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