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空を見上げる。
そこには、横浜ではけして見られない星々が瞬いている。その輝きがまるで、この夏再会した彼女のようだと考えてしまう自分に冥加は一人苦笑した。
その輝きが見たくて、触れたくて、必死に手を伸ばしても届かない光。解放されたいと抗ったはずなのに、あの音を再び聞いた瞬間、また囚われたい、支配されたいと願ってしまう光。
今日とて、本当はここに来るはずではなかったのだ。
それが、あの女に言いくるめられなし崩しに宿泊するはめになった。
光を見れば見るほど、その光に焦がれ彼女を求めてしまう。
自ら火の中に飛び込む虫のように。
小日向かなで。
冥加にとっての呪いであり、太陽であり。
ふと、ひときわ強く星が瞬いた気がした。
あれは、こと座のベガだ。星にまつわる逸話、オルフェウスの物語が冥加の頭をよぎる。
冥土に堕ちたエウリディケ。
それを取り戻しに行くオルフェウス。
「絶対に振り返ってはならない」というハデスとの決め事を胸に刻み、オルフェウスはエウリディケを連れ、冥府の階段を地上へと上がっていく。
しかし、地上が見えた瞬間、オルフェウスは喜びのあまり振り返ってしまう。
エウリディケは冥府奥深くへと引き摺り戻され、彼女は永遠に帰ることはなかった。
まるで、オルフェウスだ。
冥土に堕ちた自分を、彼女は迎えに来た。オルフェウスと同じように、音楽の力を使って。
それは、自分にとっての都合の良い解釈なのかもしれない。それでも、彼女のその音色によって俺は冥府から帰ることを許された。
だが。
そこに何の感情があったのかはわからない。彼女は、後ろを振り返ってしまった。
そして俺は再び深い深い闇の中へと引き戻された。彼女という光を求め、欲する渇望の地底へ。
「冥加さん?」
オルフェウス――否、小日向の声だ。
「やっぱり冥加さんだ。星を、見ているんですか?」
彼女は了解も無しに俺の隣に座り、同じように星を見上げた。
「綺麗ですね」
星空に身入る横顔があまりにも無邪気で、悪態をつく気も失せ、俺もまた星空を見つめる。二人はしばらく黙っていたが、不思議と、その沈黙は心地よかった。
「冥加さんて、オルフェウスみたいですよね」
「な・・」
先ほどまで考えていた言葉が小日向の口から出たことで、少なからず俺は少し動揺した。満点の星空、輝く星はたくさんある。その中でベガを、こと座を想起し、その物語の中の人物を誰かに重ねる。
こんな偶然があるだろうか。
「でもオルフェウスと違って、冥加さんは私をちゃんと、地上まで連れ戻してくれましたよね」
星空を見上げていたはずの横顔は、まっすぐにこちらを向いている。
「ありがとうございます」
小日向は少し恥ずかしそうに、小さな声で、それでもはっきりとそれを口にした。俺は声もなく彼女の顔を見つめていた。その言葉の真意を探ろうと表情を見るも、そこには純粋な感謝しか見当たらない。
「何の話だ」
小日向は答えず、また、星空を見上げた。
しばらくして、そろそろ戻りますと言って小日向は宿へ戻っていった。
「俺がオルフェウス、か」
彼女の言葉の真意はわからない。
それでも、もし、俺がオルフェウスだとしたら。
彼女が何か音楽で迷い、深い闇の中でさまよったなら。
どんなに暗い地の底、冥府のその果てだとしても、彼女を必ず連れ戻す。
俺は、オルフェウスにはならない。
これは、冥かな・・?
冥加さんは多分冥府に行ったら普通にみんな道あけてくれそう
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