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19話← 茨の森18話 →17話 →→→1話
函館天音軸 冥加×かなで
函館軸ですがゲーム本編に全然沿ってません(コンクール云々は一緒)
ファンタジー色強め、登場人物のキャラクターがおかしいかもしれません
オリジナルの捏造設定のようなものも多々でてくるのでご注意を。
函館天音軸 冥加×かなで
函館軸ですがゲーム本編に全然沿ってません(コンクール云々は一緒)
ファンタジー色強め、登場人物のキャラクターがおかしいかもしれません
オリジナルの捏造設定のようなものも多々でてくるのでご注意を。
「笑う棘」
ノックの音がしたが、冥加はそれに応えなかった。その主が名乗らなかったからだ。すると、もう一度扉を叩く音が響いた。
御影や学園の教師であれば名を言うだろうし、室内楽部の人間もそうだ。天宮は別だが奴はノックすらしない。とすれば、外部の人間か、または冥加にはあまり関わりの無い学園の生徒か。特に今日は来客の予定は無かったと頭の中で予定を確認したが、中にいたまま無視するのも職務怠慢だと扉の外へ声をかけた。
ゆっくりと聞かれた扉の先にいたのは、小日向かなでだった。思いもよらぬ来客に冥加は思わず声を漏らした。
「小日向……?」
「し、失礼、します」
走ってでも来たのか、小日向の顔は少し上気しており、声にも多少の息の荒さが表れていた。それを隠そうともせず、彼女は扉を開いた時と同じようにゆっくりと閉め冥加へとまっすぐに向き直った。
この部屋に何をしに来たというのか。ドアをノックしなかったという不信感よりも、冥加の心中には圧倒的な戸惑いがあった。
「何か用が?」
「はい! えっと……お話があるんです。冥加さんに言わないといけないことが、あります」
気まずそうに、彼女は一瞬冥加から目を逸らした。だがすぐにその視線は自分へと戻る。もしや、と冥加は思い当たる。
「思い出したんです、全部」
水面に滴が落ち、滴は波紋を生み、さざ波を立てる。だが、それだけだ。
「だから何だ? 思い出そうが出すまいが、貴様がしたことは変わらん。思い出しただけで許されるとでも思ったのか」
「そうじゃないんです。でも、これだけは言っておかないといけない気がして」
思い出したとて、憎しみが癒えるわけでもない。だが、不思議と悪い気はしなかった。そうか、とだけ呟き冥加は小日向から目を外して沈黙した。喋るべき言葉が見つからなかったのだ。いつもならそこで話を切り上げ、さっさとこの女を追い返していただろう。話を終わらせるということを忘れるほどに冥加は自分に渦巻く感情に混乱していた。
パソコンからメールの受信を知らせる高い音が鳴った。それでも冥加はそれに見向きもせず、話すべき何かを探していた。言いたいことは星の数ほどあるはずだった。底知れぬ憎悪、身を引き裂かれるような怒り、水の中でさえ燃え続ける復讐の炎。それなのに、そのどれもが形作る前に融けてしまう。温度の高い地表に降る雪のように。
「あ、あの! 私、ヴァイオリンを続けていて良かったと思ったんです。冥加さんに、また会えて良かった」
少しの間があって、小日向はまたはっきりと言葉を紡いだ。また会えて良かった。少しのためらいも、疑いも無い声だった。背もたれに寄りかかると、ギィと椅子が音を立てる。耳障りなその音に冥加は顔をしかめた。
再会は自分にとって何をもたらしただろうか。傷を抉られたことは確かだが、会わないまま傷が風化していくこともなかっただろう。いつかは出会わなければ、狂っていたかもしれない。
「函館天音学園に、行って良かったです」
小日向が一点の曇りない笑顔を見せるから、苦しくなった。
「俺は……」
良くない。
地の果てまでも追い続け、復讐を誓った相手をようやく見つけることができた。しかし、その相手は茨の森の城の中。見えはするが、触れられないのであれば復讐を遂げることも叶わない。城に入ろうと蔦を幾度斬りつけても茨はそれをものともせず、お前はお呼びでないのだと嘲笑うのだ。
茨はやがて城を蝕み、放っておけば朽ちていくのだろう。だが、冥加は何よりそれが耐え難かった。望むのはこの手による破滅なのだ。他人の介在は邪魔でしかなく、そして自壊でさえ許せない。だからこそ、冥加は小日向が函館天音に行ったことを嘆いた。
どうして函館天音だったのか。どこか別の場所であれば、他の高校であればコンクールで競い、この手で直々に小日向を下すことができた。あの男に着け狙われることもなかったはずだ。
「函館天音にだけは、来るべきじゃなかった」
二度目の言葉は、一度目よりもその重さを増していた。
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