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セヴシック

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茨の森 4
5話←  茨の森4話  →3話  →→→1

函館天音軸 冥加×かなで
ファンタジー色強め、登場人物のキャラクターがおかしいかもしれません
オリジナルの捏造設定のようなものも多々でてくるのでご注意を。

茨の森 4
「妖精」



 明日に控えた全国学生音楽コンクールのアンサンブルの練習を終え、天宮はふらりと屋上庭園へと立ち寄った。本来ならば立ち入り禁止の庭園だが、そんなところも含めて天宮はこの美しい庭園を気に入っていた。
 庭園には先客がいた。横浜天音とは正反対の黒い制服を着た少女。男女の違いはあれ、その服は昔の自分を髣髴とさせた。そういえば函館天音から生徒が来ているという話を冥加から聞いていた。あの双子とアンサンブルを組んでいるなどどんな物好きかと、天宮は好奇心から彼女に近づいた。
 少女は天宮の接近にも気づかず、穏やかにヴァイオリンを弾いている。演奏を遮るほどの声を出すことは面倒で、天宮は曲が途切れたのを見計らって声をかけた。
「こんにちは」
「へ…あ、こんにちは?」
 驚きながら振り返った顔を見て、天宮はふと懐かしい感覚に気づいた。どこか人間離れした、霧に包まれたようにぼやけた輪郭。函館天音の生徒特有のその匂いを、天宮は感じ取っていた。だが、少し濃すぎる。そう感じるのは天宮が函館を出て久しいからだろうか。
「あの、何か…?」
「ああごめん、僕は天宮静。横浜天音のピアノなんだ。君は、函館から来た生徒だよね?」
 少女は律儀にお辞儀をして名乗った。
「はい。小日向かなでって言います。楽器はヴァイオリンです」
「へえ…」
 ガラスのように脆く澄んだ瞳が天宮を見返した。纏わりつく人ならざるものの雰囲気とは裏腹に、彼女の態度ははっきりとしたもので天宮はなんだかちぐはぐな印象を受けた。
「もしかして、私変ですか?」
「いや、そうじゃないんだけど。透き通った目をしていると思って」
「そうですか?」
 小日向は不思議そうに首を傾げる。
「まるで、妖精に誘われる子供みたいだ」
「妖精…」
 天宮の言葉を馬鹿にするでもなく、訝しがるでもなく小日向は考え込んだ。普通ならしないであろう反応を返され、天宮は興味深そうに彼女を観察する。
「あの、天宮さんはそういうことに詳しいんですか?」
「別に。詳しいというほどじゃないかな」
 自分も函館に居たことがあると言おうとして、それは彼女の言葉に先を越された。
「私、記憶が無くて。函館天音学園に入る前の記憶、全部」
「記憶が?」
「はい。自分がどこから来たのかもわからなくて」
 記憶が無いということは、空っぽであるということと同義ではないみたいだと天宮は分析をしていた。彼女の演奏には確かに感情がこもっていた。記憶を失ってもいない自分と比べて、遥かに。小さな違和感を覚え、天宮はある仮説を立てていた。
「君は深い森の中に足を踏み入れてしまったのかな」
「深い森、ですか?」
 小日向に自覚は無いらしい。あの函館天音学園という特殊な環境に居たのでは、無理もないのかもしれない。
「例えだよ。童話なら、連れ戻してくれるのは王子様、かな」
「王子様」
「ごめん、少し適当なことを言いすぎた」
「いえ、こちらこそ急に記憶が無いなんて言い出してしまって。妖精のこと、知っている範囲でいいので詳しく教えて…」
 その時携帯の着信音がして、二人は各々の携帯を確認した。それが小日向のものだとわかると、天宮は出なよと彼女を促した。
「ニア?うん、まだ学校。え、今日はソラの担当だったんじゃあ…。わかった、すぐ帰るね」
 他人と関わることを拒絶し恐れているようでもあった一人と、つかみどころが無く他人に付け入る隙を与えないもう一人。聞き覚えのある名前が耳をかすめ、天宮は目を細めた。あの気難しい双子の名前を呼ぶぐらいには、小日向はうまくやっているのだろう。
 だがあの二人は共にいてくれることはあっても、きっと森の外へと逃げることはしない。それが良いことなのか悪いことなのか、天宮にはわからない。
「すみません、私帰らなきゃ行けなくなってしまって」
「構わないよ。急に話しかけたのは僕の方だし」
 荷物をまとめて帰り支度をする小日向を、天宮はただ見ていた。
「明日の大会、頑張りましょう!後、今度さっきのお話の続きをできたら嬉しいです」
「…うん、そうだね」
 パタパタと駆けていく小日向を見送りながら、天宮の頭には一つの詩が思い浮かんでいた。子供を誘う妖精の詩。その詩の最後、子供がどうなったのかが思い出せない。
「王子様が、来てくれるといいね」
 森に迷ったかよわいお姫様というには、少し元気が良すぎると天宮は思った




最初に少し注意書きを足しました。
ゲーム本編以上にファンタジー色が強く?なりそうなのでそれでもいいと言う方はお付き合いいただけると嬉しいです。

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