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18話← 茨の森17話 →16話 →→→1話
函館天音軸 冥加×かなで
函館軸ですがゲーム本編に全然沿ってません(コンクール云々は一緒)
ファンタジー色強め、登場人物のキャラクターがおかしいかもしれません
オリジナルの捏造設定のようなものも多々でてくるのでご注意を。
函館天音軸 冥加×かなで
函館軸ですがゲーム本編に全然沿ってません(コンクール云々は一緒)
ファンタジー色強め、登場人物のキャラクターがおかしいかもしれません
オリジナルの捏造設定のようなものも多々でてくるのでご注意を。
「相談」
相変わらずのうだるような暑さの中、まだ人影のまばらな午前、セミはもう活動を始めていて、相手を求めて必死で鳴いている。
かなで達四人は山下公園でアンサンブル練習を行っていた。ファイナルへ向けて、全員で何曲か演奏してみて早々に曲を選ぶことにしたのだ。ここまで来たからには優勝と、ニアやソラも前よりもコンクールに前向きなようだった。
四人が同じ方向を向いているということがかなでにはとても嬉しかったが、その割にはヴァイオリンの音が弾まない。
原因はわかっている。昨日思い出した記憶のせいだ。自分と向き合うためにヴァイオリンを弾こうと決意したはずなのに、まだ体はそれを認めていないようだった。
「小日向さん、どうかしたのかい? なんだか、元気が無いみたいだ」
「そ、そんなことないよ」
努力空しく、かなでの動揺は仲間たちに筒抜けだったようだ。トーノが心配そうにかなでを見つめていた。
「今日はもう練習は辞めた方がいいかもね。僕も疲れたし、暑いし」
ソラもかなでに気を遣ってか、フルートをしまい帰る支度をしていた。練習を続けようとするのも彼らの優しさを無下にするようで、かなでも謝りながらヴァイオリンをケースに収めた。
「みんなごめん。せっかくのアンサンブル練習なのに」
「まだ時間はあるし、ゆっくり休むといいさ。……色々あったしな」
「うん……ありがとう、トーノ」
公園から引き上げるかなでの耳に、セミの声がうるさく付きまとった。
昼食を済ませ、二番目の家にはニアとかなでだけが残っていた。セミファイナルの前は練習ついでに外で食べることが多かったため、昼時を家でゆっくりと過ごすのは久しぶりだった。
「何か思うところがあるのなら相談に乗ろうか?」
「……」
「本来なら苺のタルトのところを、今なら出血大サービスだ。君の手作りのお菓子で相談に乗るぞ?」
からかうような口調だがその目は優しい。ここで遠慮しても余計心配させてしまうだけだろう。
「ありがとう、ニア。お菓子何がいい? 久しぶりだし、ちょっと張り切っちゃおうかな」
「フフ、楽しみにしているよ。ではクッキーを頼もうか」
何かを作るということは、音楽も料理も似ている。自分の手から新しい何かを生み出す楽しみ。自分のため、誰かのために作ることの喜び。それらはかなでが音楽と料理を好きな理由の一部でもある。
出来上がったクッキーを皿に並べながら、かなでは紅茶を淹れた。ニアがミルクティー派だったことを思い出し、冷蔵庫から牛乳を取り出す。
牛乳を静かに注ぎ入れると、紅茶は一瞬にしてその透明度を失った。
「やはり君の作るものにハズレは無いな。この紅茶にも合う」
「えへへ、頑張りました」
「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか」
食べながらで構わないから、とニアは自身もクッキーを食べる手を止めない。急に喉が渇いたような気がしてかなではミルクティーを口に含んだ。当たり前のことだが、依然としてそれは濁ったままだ。
携帯を手に入れたことで記憶を思い出したが、冥加のことは思い出せなかったこと。アレクセイに会ったことで全部思い出したこと。記憶を二度も封じ込めたこと。気づけばすべてをかなでは話していた。
ニアは静かに、否定も肯定もせず話を聞いてくれた。
「気休めにしかならないと思うが、辛い記憶を忘れてしまうというのは正しい防衛反応だ。誰しも忘れたい記憶を持っているものだよ。それに、7年前の出来事だろう? 記憶のこと関係なしに、忘れていたとしてもおかしくない年数だ」
「でも、私が酷いことをしたっていうのは事実だから……」
「君はきっと、自分がやってしまったことに強い罪悪感を覚えているんだろうな」
あの時のかなでは自分のしたことの意味も分かっていなかった。それが余計に罪の意識を重いものにしていた。
「だから、その恋心を認めるわけにはいかないと」
「へ?」
思いもよらない単語がでてきたことで、かなでは素っ頓狂な声をあげてしまった。
「あの男は面倒だぞ。お勧めはしない」
「そ、そういうのじゃないよ!」
「そうなのか? 自分を嫌う人間に構うなんて、好き以外の何物でもないと思うが」
この想いが恋心だとして、そんなことは許されるのだろうか。
「いずれにせよ、記憶を思い出したことは言ったほうがいいんじゃないか。憎んでいるとしても、おそらく忘れられているというのが一番酷だからね」
落ち着きなくカップをいじっていた手が止まった。中のミルクティーはもう無い。
「そうだよね! 私、行ってくる」
「今すぐ行くのか? 小日向――」
かなでは思い立つや否や、自分の部屋へと向かった。ヴァイオリンケースとカバンをひっつかみ、慌ただしくリビングを通り過ぎた。
「行ってきます!」
一刻を争うかのように、かなでは扉を開けて走り出す。
「居ても立っても居られないか。まさしく、恋する乙女だな」
ニアが何か言っていたが、家から飛び出したかなでの耳には届かなかった。
相変わらずのうだるような暑さの中、まだ人影のまばらな午前、セミはもう活動を始めていて、相手を求めて必死で鳴いている。
かなで達四人は山下公園でアンサンブル練習を行っていた。ファイナルへ向けて、全員で何曲か演奏してみて早々に曲を選ぶことにしたのだ。ここまで来たからには優勝と、ニアやソラも前よりもコンクールに前向きなようだった。
四人が同じ方向を向いているということがかなでにはとても嬉しかったが、その割にはヴァイオリンの音が弾まない。
原因はわかっている。昨日思い出した記憶のせいだ。自分と向き合うためにヴァイオリンを弾こうと決意したはずなのに、まだ体はそれを認めていないようだった。
「小日向さん、どうかしたのかい? なんだか、元気が無いみたいだ」
「そ、そんなことないよ」
努力空しく、かなでの動揺は仲間たちに筒抜けだったようだ。トーノが心配そうにかなでを見つめていた。
「今日はもう練習は辞めた方がいいかもね。僕も疲れたし、暑いし」
ソラもかなでに気を遣ってか、フルートをしまい帰る支度をしていた。練習を続けようとするのも彼らの優しさを無下にするようで、かなでも謝りながらヴァイオリンをケースに収めた。
「みんなごめん。せっかくのアンサンブル練習なのに」
「まだ時間はあるし、ゆっくり休むといいさ。……色々あったしな」
「うん……ありがとう、トーノ」
公園から引き上げるかなでの耳に、セミの声がうるさく付きまとった。
昼食を済ませ、二番目の家にはニアとかなでだけが残っていた。セミファイナルの前は練習ついでに外で食べることが多かったため、昼時を家でゆっくりと過ごすのは久しぶりだった。
「何か思うところがあるのなら相談に乗ろうか?」
「……」
「本来なら苺のタルトのところを、今なら出血大サービスだ。君の手作りのお菓子で相談に乗るぞ?」
からかうような口調だがその目は優しい。ここで遠慮しても余計心配させてしまうだけだろう。
「ありがとう、ニア。お菓子何がいい? 久しぶりだし、ちょっと張り切っちゃおうかな」
「フフ、楽しみにしているよ。ではクッキーを頼もうか」
何かを作るということは、音楽も料理も似ている。自分の手から新しい何かを生み出す楽しみ。自分のため、誰かのために作ることの喜び。それらはかなでが音楽と料理を好きな理由の一部でもある。
出来上がったクッキーを皿に並べながら、かなでは紅茶を淹れた。ニアがミルクティー派だったことを思い出し、冷蔵庫から牛乳を取り出す。
牛乳を静かに注ぎ入れると、紅茶は一瞬にしてその透明度を失った。
「やはり君の作るものにハズレは無いな。この紅茶にも合う」
「えへへ、頑張りました」
「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか」
食べながらで構わないから、とニアは自身もクッキーを食べる手を止めない。急に喉が渇いたような気がしてかなではミルクティーを口に含んだ。当たり前のことだが、依然としてそれは濁ったままだ。
携帯を手に入れたことで記憶を思い出したが、冥加のことは思い出せなかったこと。アレクセイに会ったことで全部思い出したこと。記憶を二度も封じ込めたこと。気づけばすべてをかなでは話していた。
ニアは静かに、否定も肯定もせず話を聞いてくれた。
「気休めにしかならないと思うが、辛い記憶を忘れてしまうというのは正しい防衛反応だ。誰しも忘れたい記憶を持っているものだよ。それに、7年前の出来事だろう? 記憶のこと関係なしに、忘れていたとしてもおかしくない年数だ」
「でも、私が酷いことをしたっていうのは事実だから……」
「君はきっと、自分がやってしまったことに強い罪悪感を覚えているんだろうな」
あの時のかなでは自分のしたことの意味も分かっていなかった。それが余計に罪の意識を重いものにしていた。
「だから、その恋心を認めるわけにはいかないと」
「へ?」
思いもよらない単語がでてきたことで、かなでは素っ頓狂な声をあげてしまった。
「あの男は面倒だぞ。お勧めはしない」
「そ、そういうのじゃないよ!」
「そうなのか? 自分を嫌う人間に構うなんて、好き以外の何物でもないと思うが」
この想いが恋心だとして、そんなことは許されるのだろうか。
「いずれにせよ、記憶を思い出したことは言ったほうがいいんじゃないか。憎んでいるとしても、おそらく忘れられているというのが一番酷だからね」
落ち着きなくカップをいじっていた手が止まった。中のミルクティーはもう無い。
「そうだよね! 私、行ってくる」
「今すぐ行くのか? 小日向――」
かなでは思い立つや否や、自分の部屋へと向かった。ヴァイオリンケースとカバンをひっつかみ、慌ただしくリビングを通り過ぎた。
「行ってきます!」
一刻を争うかのように、かなでは扉を開けて走り出す。
「居ても立っても居られないか。まさしく、恋する乙女だな」
ニアが何か言っていたが、家から飛び出したかなでの耳には届かなかった。
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