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セヴシック

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茨の森 10
11話←  茨の森10話  →9話  →→→1話
函館天音軸 冥加×かなで
函館軸ですがゲーム本編に全然沿ってません(コンクール云々は一緒)
ファンタジー色強め、登場人物のキャラクターがおかしいかもしれません
オリジナルの捏造設定のようなものも多々でてくるのでご注意を。

「お礼」




「じゃあ、そういうことだから。手続きをお願い致します。理事長代理殿」
 そう言って御影は理事長室を出て行った。
 冥加はため息と共に椅子に腰かけ、神妙な面持ちで天井を見つめた。先ほど御影からセミファイナルからの演奏は函館のメンバーのみで行うという旨を説明され、反対したものの押し切られてしまった。
 なんでも函館天音の理事長であるアレクセイの意向らしい。新設校である横浜天音学園は本校である函館に比べまだまだ立場は弱く、アレクセイの決定であれば覆すことはできないだろう。
 気分を変えようと冥加はコーヒーメーカーの前に立ちスイッチを押す。エラー音が響き、冥加は眉を寄せた。そういえばコーヒー豆を切らしていたことを忘れていた。何も注がれないポットを恨めしく見た後、冥加は再度椅子に座る。
 そもそも、アレクセイが学生の音楽コンクールに興味を持つとは思えない。奴には何らかの目的があり、そのために函館天音を出場させていると考えるのが妥当だ。支倉の言っていたブラボーポイントもその目的の一つなのだろうが、おそらくそれだけではない。冥加の脳裏に一人の少女の姿が浮かび上がる。嫌な予感がした。


 理事長室から出てコーヒー豆を補充するついでに何か昼食を調達しようと考えていた矢先、冥加は忌々しい人影をエントランスに見つけた。その人影は知ってか知らずか外へ出るには避けようのない場所に陣取っている。ため息をつき、冥加は足を速めてエントランスを歩いた。
「あ、冥加さん。こんにちは」
「…ああ」
 立ち止まることなく冥加は小日向の横を通り過ぎる。
「ちょ、ちょっと待ってください」
「何か用が?」
 小日向は慌てて冥加の前に立ち塞がった。どうやらこの場所にいたのは確信犯らしい。冥加は彼女に呼び止められる理由を探したが、どう考えても見当たらない。
 もしかすると、記憶を取り戻した?
 だが、思い出したからといって何になる? 覚えていようがいまいが7年前の事実は変わらず、また忘れていたということもすでにはっきりと冥加の復讐心に刻まれていた。
「あの、この前はハンカチありがとうございました。それで、お礼にお弁当を作ってきました」
 予想だにしない言葉が小日向から発せられ、冥加は一瞬正気を疑う。この女は今なんと言った?
「もしかして、もうお昼食べちゃいましたか?」
 先ほどの言葉で混乱していたのか、冥加は口を滑らせた。
「まだだが」
 冥加がしまったと眉間に皺を寄せていく一方、目の前の少女が目に見えて明るくなる。
「なら良かったです! 良かったら、その」
 小日向の表情が決意を帯びたものに変わる。
「一緒に食べませんか」
 冥加には文字通り理解ができなかった。自分に冷たく当たる男に、何故この女はこうも易々と一緒に食事をしようなどと図太いことが言えるのか。頭の中が雑然としてくる。
「断る」
「どうしてですか?」
 小日向は断られるのがわかっていたように、まったく怯む様子はない。
「貴様と食べる理由が無い。そんな暇も無い」
 あの地方大会が終わってから今日まで小日向に会うことも無かった。そして今後、自分と小日向は同じ天音学園として演奏することもなくなる。関わる義務はもう存在しない。
「だから、このハンカチのお礼です。時間なら気にしないでください。私食べるの早いですし、食べ終わったら置いていってかまいません」
 小綺麗な袋を掲げ、きちんと洗濯してアイロンをかけましたと小日向は得意げだ。あの時うっかりハンカチを渡してしまった自分を心底呪った。
「礼など必要ない。そのハンカチも返却しなくて結構だ」
「借りを作ったままっていうのは嫌です」
「あんなものは貸しでもなんでもない。貴様がいらないのなら捨てろ」
「人から貰ったものを無下にはできません」
 それから何度か似たやり取りが繰り返されたが、小日向を退却させるまでには至らなかった。痺れを切らし、冥加ははっきりと拒絶の言葉を口にした。
「度し難いほどの愚鈍さだな。貴様と共に食事をするなど願い下げだと言っている」
 さすがに堪えたのか、小日向は何か言おうとして口ごもった。やっと解放されると思ったのも束の間、小日向は持っていた包みを冥加に突き出した。
「じゃあ、これも冥加さんがいらないのであれば捨ててください」
 弁当箱らしきものを体に押し付けられ、咄嗟にその包みを受け取ってしまった。
「忙しいなら尚更、ちゃんとご飯は食べないとですよ!」
 少し不服そうな顔をしていたかと思えば、小日向はしてやったりとでも言いたげに笑った。そしてお仕事頑張ってくださいと言うと、遅くはない速度で冥加の視界から消えた。受け取った包みを睨むが当たり前のごとく反応はない。本当に捨てるわけにも行かず、冥加は理事長室に戻りその弁当を食べる羽目になった。
 だから、あの女に関わるのは嫌なのだ。自分の貫いてきたものをいとも簡単に乱され、自分が自分で無くなるような感覚に陥るから。
 逃げられはしない、と誰かが笑っている気がする。それこそが呪いなのだ、と。
 
 小日向のせいで、本来の目的であるコーヒー豆の購入をまた忘れていた。今日何度ついたかわからないため息をつきながらも、冥加は弁当を完食した。普段はあまり飲まない紅茶を淹れながら、帰りにハラショーにでも寄るかとぼんやり考えた。一口飲んでティーカップを机に置くと、その横にある返されたハンカチが目に入った。
 そういう意図もなかったが、これは貸与したものだ。それが返却されてしまっては、冥加はただ小日向に施しを受けたことになる。
 慣れない紅茶を無理に飲んだせいか、やけに口の中が苦々しかった。
「寄るべき場所が増えたな……」
 一人呟いて、冥加は理事長室を後にした。



書く速度にムラがありすぎる…

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