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27話← 茨の森26話 →25話 →→→1話
函館天音軸 冥加×かなで
函館軸ですがゲーム本編に全然沿ってません(コンクール云々は一緒)
ファンタジー色強め、登場人物のキャラクターがおかしいかもしれません
オリジナルの捏造設定のようなものも多々でてくるのでご注意を。
函館天音軸 冥加×かなで
函館軸ですがゲーム本編に全然沿ってません(コンクール云々は一緒)
ファンタジー色強め、登場人物のキャラクターがおかしいかもしれません
オリジナルの捏造設定のようなものも多々でてくるのでご注意を。
「導き」
音色に導かれるままに、かなでは夜の街を走った。走りながら、この道が見覚えのあるものだとうっすら感じていた。この一か月弱、毎日のように通った道。そう、これは横浜天音学園へと続くものだった。
エントランスを通り、階段を駆け上がった。息はとっくに切れていて、髪も崩れてしまっていた。それでもそんなことは気にならなかった。早くその音にたどり着きたい。廊下に響く自分の足音がかなでを急かした。
ようやくその音が奏でられている場所、聖堂へとたどり着き、弾む息を少しだけ整えた。前にもこんなことがあった気がする。あの時も、こうして緊張しながら扉を開けて、そして中に彼がいたのだ。
愛のあいさつは変わらずこの扉の奥から聞こえ続けている。扉の向こうにいるのは、おそらく彼だ。その音が誰へと向けられたものなのかはわからないけれど。高鳴る鼓動のままに、かなではその扉を押し開けた。
扉が音を立てて開き、それに気付いたのか冥加が演奏を止めた。
「小日向、かなで……」
驚いた顔をしてかなでの名前を呟く。その表情が何を意味するのかは、遠すぎてよくはわからなかった。
「冥加さ、ん」
話したいことはたくさんあったはずなのに、扉を開けた瞬間すべてが飛んでしまった。聖堂に自分の荒い息遣いだけが響き、かなでは赤面した。だが冥加は何も言わず、ただかなでを先ほどの表情のまま見つめていた。
「あ、あの……」
沈黙に耐えられずかなでは声をあげた。
「えっと、今日のコンクール、聞いてくれましたか?」
「……ああ」
かなでとしては演奏がどうだったかという意味も含めていたのだが、冥加は短く聞いたかどうかしか答えなかった。
「聞いてほしい曲があるんです」
走りながら考えていたことを、ようやくかなでは思い出し始めていた。7年前のコンクールのことだ。あのコンクールから冥加が囚われたままならば、それを解放したかった。彼を解放できない限り、自分もまたあのコンクールに囚われたままだと思ったのだ。
解放というのは、少しおこがましいかもしれない。
「好きにしろ」
「……はい!」
ケースを開き、ヴァイオリンを取り出す。ヴァイオリンにはコンクールでつけた金色の弦がそのままになっている。冥加の表情が変わったのを、ヴァイオリンを構えたかなでは気づかなかった。
かなでが弾いたのは、7年前のコンクールの二曲目。一曲目とはうって変わって、精彩を欠いた演奏になってしまった曲だ。コンクールと音楽の楽しさ、そして苦しさをあの頃よりも知ることができた今なら、この曲をもう一度弾けると思ったのだ。
意識したのは、地方大会で背を向けられた時。かなでは悔しかった。冥加に認めてほしかった。認めてほしい、から笑顔が見たい、彼を知りたいという感情が見え始めたのもこの頃。何でもいい、彼に関わっていたくて、無理にお弁当を渡したこともあった。
そして記憶を取り戻して、それまでの感情のほとんどは罪悪感に変わってしまった。笑いかけてほしいという願いも、過ぎたものとして自分から消した。だって、自分は酷いことをしたのに相手に笑いかけてほしいなんて、それはあまりにも贅沢だ。
簡単に謝罪することもはばかられ、かなではただ思い出したということだけを冥加に告げた。当たり前のように返ってきた憎悪に胸が締め付けられた。以前は意味がわからずただ困惑していただけだったが、意味を持った途端憎しみは容赦なく心を刺した。
自分にできることは何か?
冥加の望みは、かなでを地獄へと落とすこと。だからと言って、自ら地獄へ下ることは、7年前の二の舞だ。かなでとて、もうそんなことはしたくはなかった。結局、かなでは上を目指すしかなかった。負けることは嫌だった。単純に悔しいということと、冥加に失望されたくはなかったから。
自分の心よりも素直に、ヴァイオリンは感情を歌った。
音楽が好きだ。
ヴァイオリンが好きだ。
そして、冥加が好きだ。
音楽に対する姿勢、覚悟。今までかなでが目を逸らしてきたものを、7年も前から背負い続けてきた人。そのヴァイオリンを、自分のために聞かせてほしい。
あなたが、好きです。
金色の弦が、その思いに共鳴したかのように輝いて見えた。
走りながら考えていたことを、ようやくかなでは思い出し始めていた。7年前のコンクールのことだ。あのコンクールから冥加が囚われたままならば、それを解放したかった。彼を解放できない限り、自分もまたあのコンクールに囚われたままだと思ったのだ。
解放というのは、少しおこがましいかもしれない。
「好きにしろ」
「……はい!」
ケースを開き、ヴァイオリンを取り出す。ヴァイオリンにはコンクールでつけた金色の弦がそのままになっている。冥加の表情が変わったのを、ヴァイオリンを構えたかなでは気づかなかった。
かなでが弾いたのは、7年前のコンクールの二曲目。一曲目とはうって変わって、精彩を欠いた演奏になってしまった曲だ。コンクールと音楽の楽しさ、そして苦しさをあの頃よりも知ることができた今なら、この曲をもう一度弾けると思ったのだ。
意識したのは、地方大会で背を向けられた時。かなでは悔しかった。冥加に認めてほしかった。認めてほしい、から笑顔が見たい、彼を知りたいという感情が見え始めたのもこの頃。何でもいい、彼に関わっていたくて、無理にお弁当を渡したこともあった。
そして記憶を取り戻して、それまでの感情のほとんどは罪悪感に変わってしまった。笑いかけてほしいという願いも、過ぎたものとして自分から消した。だって、自分は酷いことをしたのに相手に笑いかけてほしいなんて、それはあまりにも贅沢だ。
簡単に謝罪することもはばかられ、かなではただ思い出したということだけを冥加に告げた。当たり前のように返ってきた憎悪に胸が締め付けられた。以前は意味がわからずただ困惑していただけだったが、意味を持った途端憎しみは容赦なく心を刺した。
自分にできることは何か?
冥加の望みは、かなでを地獄へと落とすこと。だからと言って、自ら地獄へ下ることは、7年前の二の舞だ。かなでとて、もうそんなことはしたくはなかった。結局、かなでは上を目指すしかなかった。負けることは嫌だった。単純に悔しいということと、冥加に失望されたくはなかったから。
自分の心よりも素直に、ヴァイオリンは感情を歌った。
音楽が好きだ。
ヴァイオリンが好きだ。
そして、冥加が好きだ。
音楽に対する姿勢、覚悟。今までかなでが目を逸らしてきたものを、7年も前から背負い続けてきた人。そのヴァイオリンを、自分のために聞かせてほしい。
あなたが、好きです。
金色の弦が、その思いに共鳴したかのように輝いて見えた。
演奏を終えて、一瞬の余韻の後に拍手が聞こえた。冥加が手を叩いている。その顔は穏やかだった。
「ずっと、その弦を持っていたのか」
「はい。コンクールのことは忘れてたんですけど、これだけはずっと大切なものだと思ってたんです。あのコンクールは、子供の私にとって辛いものだったんだと思います。だから、なかったことにしようとした。でも、それだけじゃなかったんです」
それを恋と呼べるかどうかはわからない。おそらく、その考えに至るほどかなでは成熟していなかった。けれど、金色の弦をくれた少年に淡い何か、他の男の子とは違う感情を抱いたのは確かだった。
「だから、その……」
長々と世間話がしたいわけではないのだ。かなでの手には汗がにじんでいて、喉も不自然に渇いていた。
「最後に、あの、一緒に弾いてもいいですか」
本当は、想いを伝えた後に聞くべきことだと思う。
「嫌だと言っても、お前は聞かないのだろう。いつかの昼食の時のように」
「あ、あれは色々と必死で……!」
彼が柔らかく笑うのを、かなでは初めて見た。
「何を弾くんだ?」
「……愛のあいさつを、お願いします」
このリクエストが既に、告白に相当するのではないだろうか? そう思いながらも、他の曲は考えられなかった。
「わかった」
向き合う形で二人はヴァイオリンを構えた。かなでは冥加に目配せをして曲を始めた。
冥加の音は以前聞いたものより優しく聞こえて、そして自分の音はどのように聞こえるのか、かなでは弾きながら思った。
好きな人と音を重ねることがこんなにも嬉しいことなのかと、かなでは心を躍らせた。音楽についてこのコンクールで色々なことを知ることができた。でもそれも、音楽のすべてではない。まだまだ、音楽について知らないことはたくさんある。
夢のような時間はあっと言う間に過ぎた。かなでは最後の音を永遠に終わらせたくない衝動に駆られた。その名残惜しさを胸にしまい、そっと弓を弦から外す。冥加も同じように、構えていたヴァイオリンをおろした。
今度こそ、かなでは言った。冥加の目をまっすぐに見て、顔を真っ赤にしながら。
「冥加さん、好きです」
冥加は目を細めて、先ほどよりも柔らかい表情で、かなでに手を伸ばした。
「ずっと、その弦を持っていたのか」
「はい。コンクールのことは忘れてたんですけど、これだけはずっと大切なものだと思ってたんです。あのコンクールは、子供の私にとって辛いものだったんだと思います。だから、なかったことにしようとした。でも、それだけじゃなかったんです」
それを恋と呼べるかどうかはわからない。おそらく、その考えに至るほどかなでは成熟していなかった。けれど、金色の弦をくれた少年に淡い何か、他の男の子とは違う感情を抱いたのは確かだった。
「だから、その……」
長々と世間話がしたいわけではないのだ。かなでの手には汗がにじんでいて、喉も不自然に渇いていた。
「最後に、あの、一緒に弾いてもいいですか」
本当は、想いを伝えた後に聞くべきことだと思う。
「嫌だと言っても、お前は聞かないのだろう。いつかの昼食の時のように」
「あ、あれは色々と必死で……!」
彼が柔らかく笑うのを、かなでは初めて見た。
「何を弾くんだ?」
「……愛のあいさつを、お願いします」
このリクエストが既に、告白に相当するのではないだろうか? そう思いながらも、他の曲は考えられなかった。
「わかった」
向き合う形で二人はヴァイオリンを構えた。かなでは冥加に目配せをして曲を始めた。
冥加の音は以前聞いたものより優しく聞こえて、そして自分の音はどのように聞こえるのか、かなでは弾きながら思った。
好きな人と音を重ねることがこんなにも嬉しいことなのかと、かなでは心を躍らせた。音楽についてこのコンクールで色々なことを知ることができた。でもそれも、音楽のすべてではない。まだまだ、音楽について知らないことはたくさんある。
夢のような時間はあっと言う間に過ぎた。かなでは最後の音を永遠に終わらせたくない衝動に駆られた。その名残惜しさを胸にしまい、そっと弓を弦から外す。冥加も同じように、構えていたヴァイオリンをおろした。
今度こそ、かなでは言った。冥加の目をまっすぐに見て、顔を真っ赤にしながら。
「冥加さん、好きです」
冥加は目を細めて、先ほどよりも柔らかい表情で、かなでに手を伸ばした。
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